まーしーのロンドン大医学部生活

University College London医学部6年生のロンドン生活、医学部での経験をお伝えします!(内容は個人の見解に基づくものであり、所属組織・その他団体と一切関係ありません)

どうしてUCLの医学部を選んだの? ④学費・学習環境

前回は、イギリスの医学部合格を目指すと決めてから、出願大学を選ぶ際に私がどのようにカリキュラムを比較したかまとめました。

大学選びでは、専攻のカリキュラム以外にも、学費や学習環境といった大学生活に大きく影響する要素も無視できません。

 

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↑雪や雨が続いていましたが、久しぶりに晴れて暖かい日でした!

 

学費

留学生の学費は高い

イギリスの大学では、どの専攻でもHome student(イギリス人)とInternational student(留学生)と2つの学費が設定されています。

Brexit前はEUの学生もHome student扱いでしたが、今秋入学の選考からEUの学生もInternational扱いになるそうです。
Home student向けの学士課程の学費は、多くの場合専攻や所属大学に関わらず一律年9250ポンド(現在のレートの日本円で約130万円)ですが、留学生の学費はHomeの学費より高く、また上昇幅も様々です。

医学部留学生の学費は特に高い

留学生枠の学費は、概して理系のコースの方が高く、その中でも医学部は各大学の中で一番学費が高く設定されていることが多いです。

また、大学間の差が大きく、例えば、

  • ケンブリッジ(おそらく一番高い):58000ポンド(約830万円)/年
  • UCL(安め):36900ポンド(約530万円)/年

と同じ医学部の留学生枠でも大きな差があります。

ちなみに、イギリスの大学が留学生向けの奨学金を用意している場合は稀なので、民間の財団や留学支援団体を探し別途応募する必要があります。

 

学習環境

医学部の場合5~6年その大学に籍を置くことになるので、学習環境は見逃せません。

留学生サポート

留学生が多く在籍している大学の方が、学習面でも生活面でも充実したサポートを受けられると思います。

UCLでは18000人以上の留学生が勉強しているからか

  • 英語の課外コース
  • 渡英する際のGP(かかりつけ医)登録やビザのサポート

が充実している印象を受けます。

また、留学生の人数が多い方が、留学生の待遇に関する意見が大学に届きやすいと思います。

例えば、現在パンデミックの影響で多くの留学生が自国からオンライン授業を受けている状況を鑑みて、授業料減免または免除を求める運動が起こっています。

(といっても、ビザの身分の留学生はPetitionと呼ばれる請願書に署名できないので、政府に働きかけることは出来ないのですが…)

周りの学生との交流

理系の学部のみを設置している大学に行くのか、多様な学部を要する総合大学に行くのかで関わる学生のグループが変わってきます。

また、日本でいう大学での部活やサークル活動に当たる「Society(ソサエティ)」の豊富さも大学によって違います。

割く時間の量もソサエティによって差が大きいので、授業スケジュールによっては参加が難しそうなものもありましたが、どのソサエティに加入しようか考えるととてもわくわくしました!

ちなみに、日本と同じようにイギリスの大学にも医学部専用のソサエティがありますが、スポーツ系だけでなく、教育系(例:外科ソサエティ、解剖学ソサエティ)やボランティア団体などもあります。

私が所属しているソサエティや課外活動についても、これから少しずつ紹介していきます!

物価

長期間その地域で生活することになるので、日々の生活費・家賃等も考慮する必要があります。

地方都市であれば(特に)家賃がロンドンの比べ物にならないくらい安いことが大きなメリットです。

 

自分に合う大学をどうやって見極めるか

欲しい人物像について、大学のパンフレットやウェブサイトに記載されていることが多いですが、

  • 大学周辺の雰囲気
  • 学生や教授陣の印象
  • 学習環境

を見定めるにはやはり実際に現地に出向くことが一番だと思います。

「百聞は一見に如かず」とはうまく言ったもので、(現在はパンデミックで難しいですが)可能ならOpen dayに参加して直感を大切にするのも良いと思います。

ちなみに、私は出願当時インドに留学していたので、面接で初めてUCLに行きました。

面接開始前の待合室で、留学生枠の他の受験生と話す機会があり、周りのレベルに終始圧倒されていました。

面接後に医学部受験生向けのキャンパスツアーに参加したところ、UCLの図書館や臨床手技練習施設の充実度、教授・学生のオープンな雰囲気に感銘を受け、「こんな大学の面接まで進めてラッキーだったな」と満足した記憶があります。笑 

今はそんな環境で実際に学べているので、本当に恵まれているなと思います。

 

初めての夜勤

以前ご報告した足の怪我が大分治り、少しずつ病院実習に復帰しています。

先日初めて夜勤実習をこなしたので、その感想を残しておきたいと思います。

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 ↑初めての夜勤のお供は、日本から持ってきた貴重なソイジョイ

 

夜勤中におこなったこと

今回の夜勤は午後8時の引継ぎから翌朝6時まででした。

その日はロンドンで雪が降っており、また私が到着した時にはXLサイズのスクラブ(写真で着ている病院内での活動着)しか残っておらずダボダボだったので 、一晩中とても寒かったです。

現在COVID-19の患者さんを主に受け入れている病棟での夜勤でした。

看護師さんと病棟管理

病棟の構造について簡単に説明を受けた後、

  • 患者さん用のパジャマやタオルの補充
  • 就寝前に飲む薬、そして翌日朝食時に飲む薬の準備

のお手伝いをしました。

処方されている薬からそれぞれの患者さんの既往歴を紐解ける点はとても興味深いのですが、まだまだ薬理学の知識が足りないなと感じます。

新しい患者さんの受け入れ準備

夜間にCOVID-19の患者さんが1名緊急治療室から病棟に移ってくるということで、受け入れの準備をお手伝いしたり、その患者さんのケアプランに関するディスカッションに参加したりしました。

例えば患者さんを受け入れる前には、病棟内での患者さんの配置を変えてベッドを入れるスペースを確保したり、服薬管理に使用するDrug chartを新しく作成したりしておく必要があります。
また、患者さんが到着したら、薬の最適な投与量を求めるためにまず体重を計り、そして医師による簡単な問診を行います。

現在私の実習先の病院では、酸素吸入を必要とするCOVID-19の患者さんに対し、

を処方しています。

この2つの投与量は体重に依りませんが、呼吸補助を必要とする患者さんに対して呼吸補助開始後24時間投与するTocilizumab(免疫抑制の効果がある関節リウマチの治療薬)は、体重に応じて投与量を調整する必要があります。

新しく病棟にやってくる患者さんは、呼吸補助を受け始める予定だったのでTocilizumabも同時に投与開始したかったのですが、COVID-19に加えて様々な既往症がありました。

そのため、持病や現在服用中の薬とTocilizumabの相互作用をすべて確認しなければいけませんでした。

処方する薬に関する情報を集めるには、まずBNF(British National Formulary:英国国民医薬品集)を参照するのですが、すべての相互作用が網羅されているわけではありません。

比較的珍しい病気を持つ患者さんにとって、Tocilizumabのように今までと違う用途で処方されるようになった薬や新しく開発された薬が安全なのかどうかという点について、薬剤師さんにその都度確認する必要があります。

ちょっと休憩

病院内に医師の休憩場所があり果物・おやつが用意されているので、そこで午前2時半過ぎに休憩しました。

毛布にくるまって紅茶を飲んで、冷え切っていた体を少し温めました。

CT画像の分析

同じ日に夜勤を行っていた研修医の先生が、様々なCOVID-19の患者さんのCT画像を見せてくださいました。

呼吸器系や循環器系の徴候がどのように画像に反映されるか、いくつか例を説明してもらいました。

 

夜勤前後の過ごし方

今回夜勤当日と翌日には、日中の実習はなかったので、ゆっくり家からオンライン授業に参加していました。

時差ボケがあまりないタイプなので、今回の夜勤もあまり対策をしなかったのですが、4時過ぎに強烈な睡魔に襲われました。笑

少し調べてみたところ、

  • 夜勤前日に早く寝て、夜勤当日午後に昼寝する
  • 夜勤前日に夜更かしをして、朝遅めに起きる

と人によって対処方法は様々なようです。

次回は、夜勤当日午後に昼寝をしてみて、夜勤がこなしやすくなるか試したいと思います。

どうしてUCLの医学部を選んだの? ③大学のカリキュラム

イギリスの大学受験では、最大5コース(そのうち医学部は最大4コース)しか出願できないので、30以上ある医学部から4つを選ばなければなりません。

 

様々なウェブサイトやオンラインで閲覧可能な大学のProspectusを活用して、情報を収集していました。 

例えば、イギリスで医学部を設置している大学をまとめた以下のページから、各大学の医学部のウェブサイトに飛べます。

www.medschools.ac.uk

自分に合った教育・学習環境を提供してくれる大学に出願したかったので、私は大学選びの際に様々な項目を比較しました。

今回は、医学部のカリキュラムにおいて私が重視していたポイントを紹介します。

 

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 ↑UCLの医学部の校舎です。低学年ではここで一日中講義を受けます。

 

医師免許取得までのカリキュラム構成

イギリスの医学部のカリキュラム構成は、大学ごとに大きく2つに分けられます。

Traditional

最初の2年間は科学理論を重視した講義を、その後3年間は病院やGPでの臨床実習を行うカリキュラムです。

座学→実習とはっきり分かれているのが特徴で、オックスフォードとケンブリッジの2大学のみで行われています。

PBL (Problem-based Learning)

少人数でのケースディスカッションやグループワークを通して医学知識や症状のマネジメント方法を身に着けるカリキュラムです。

医学部低学年から、講義や自主学習と並行して臨床実習にかなり時間を割くことが特徴です。

Integrated

上記2つの良いとこどりで、低学年では病院での実習を少し取り入れつつ主に講義や解剖を行い、高学年では臨床実習に注力しつつ講義も受けます。

BMA(イギリスの医師会)が推奨しているカリキュラムなので、UCLを含め多くの大学で採用されています。

私は、

  • 現場でアウトプットを行う前に、体系化できるまで知識をインプットしておきたい(→ある程度基礎講義と実習に分かれている方が良い)
  • 患者さんとのコミュニケーションに慣れるまでに時間がかかりそう(→低学年から少しずつ臨床経験を積みたい)

と思ったので、このカリキュラムの大学が一番自分に合っていると思いました。

 

人体解剖実習の進め方

私は小学生の時に通っていた理科実験教室で、動物や魚の解剖をすることが大好きだったので、医学部に入学できた暁には人体解剖を自分の手でやってみたいと思っていました。

カリキュラム構成として大々的に書かれていなかったのですが、詳しく大学の資料を読み込むと、

  • 学生がグループごとにご献体を担当し実際に解剖する大学
  • 教授がご献体を解剖するのを学生が見学する大学

があることが分かったので、人体解剖の経験が積める大学を選びました。

 

Intercalation(医学部中学年での1年間の理学士号)の有無

イギリスの医学部には、医学部中学年で純粋な医学から1年間離れて、医学に関連する理学士号(BSc)を取得するIntercalationという制度があります。

大学によって5年制だったり6年制だったりするのは、Intercalationを必須としている大学とそうでない大学があるためです。

私は2019/20に免疫学・感染症学・細胞病理学についての理学士号を取得したので、また今度詳しく書きたいと思います。

UCLでは、学士編入の学生以外は全員3年時にIntercalationを行うこととしているので、20種類以上のコースから興味のあるものを選べます。

例えば、UCLが強い神経科学のコース、数学・コンピュータサイエンスの医療への応用のコース、医療人類学や医療倫理のコースと様々な選択肢があります。

医師免許だけであれば5年で医学部卒業できるところ、余計に1年かかってしまいますが、

  • BSc(理学士号)を取得すれば、将来のマッチングや専門医コース出願の際に評価される
  • 学生のうちに研究に従事する機会が得られる

といった、将来キャリアプランを建てるうえでのメリットが大きいと考えました。

Intercalationが必須でない大学の場合、コースの選択肢が数少なかったり、ほかの大学に出願する必要があったりするので、私はIntercalationが必須で制度が整っている大学が良いなと思いました。

 

MBPhD(医学博士課程)進学の選択肢

MBPhDは、医学部4年次と5年次の間に3年間研究を行い、PhD(博士号)を取得するプログラムです。

出願に当たっては、イギリスの医学部に在籍しBScを持っていることが条件なので、この制度を利用し6+3=9年間かけて医学部を卒業した暁には、

  • MBBS = 医師免許
  • Intercalated BSc = 理学士号
  • MBPhD = 医学博士号

の3つを取得していることになります。

イギリスで医学系のPhDを取得する場合通常4年間かかるので、(実際4年間に延長する人も多いと聞きますが)3年間でPhDが取得できるこのコースは、研究職を目指す学生にとって非常に魅力的だと思います。

また、イギリスでPhDをする場合は(授業料を払うのではなく)手当をもらえるので、研究に集中して取り組めます。
現在この制度がある大学は多くありませんが、決して他大学に進むとこの選択肢が絶たれるわけではなく、例えばUCLに4年次で編入すればMBPhDのコースに進むことが可能です。

 

最後に

人によって重要視するポイントは違うと思いますが、調べれば調べるほど大学ごとの特色が見えてくるはずです。

私は、それぞれの大学で勉強している姿を想像することがとっても楽しかったです!

どうしてUCLの医学部を選んだの? ②国選び

「どうしてUCLの医学部を選んだのか」という質問に対する答えとして、前回は海外の医学部に挑戦する決断に至った経緯をまとめました。

今回は、海外とひとくくりに言っても様々な国の選択肢がある中で、私が留学先として検討した国や、最終的にイギリスの大学に出願することにした理由を紹介したいと思います。

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↑医学部の面接でリーズに行ったとき。冬のイギリスの気候&アクセントに困惑しました…笑

 

大学留学で一番メジャーなアメリ

私が通っていたインドの高校では卒業生の多くがアメリカの大学に進学しましたし、日本でも留学というと真っ先にアメリカが頭に浮かぶ人が多いのではないかと思います。

アメリカには医学や公衆衛生で世界的に有名な教育・研究機関が多く存在しますが、医学を学び医師になろうとする場合、過程が日本と全く異なります。

日本の医学部では、(高校卒業後)学部課程で医学を専攻し6年間で医師免許を取得できますが、アメリカでは大学院で医学を専攻します。

そのため、学部を卒業した後医学大学院で勉強することになるので、免許取得までに学部4年+大学院4年=計8年間かかります。

学部課程の4年間には、Pre-medと呼ばれる医学部準備コースで医学の基礎となる生命科学や生化学等を専攻する学生が多いと聞きますが、全く医学とは関係ない専攻から医学大学院に出願する学生もいます。

私はなぜアメリカを選ばなかったのか

まず、一番大きな理由は、医師免許取得までにかかる8年間という年数です。

医学部卒業後も、医師として一人前になるまでに初期研修や後期研修とかなりの年月を要するので、それなら6年間で免許を取得できる日本の医学部の方が早く勤務経験を積めるなと考えていました。

しかし今同じ決断を迫られるのであれば、医師として生涯働く場合専門医になってからの期間が長いことを考慮して、医学部を何年間で卒業するかより、医学部在籍中にどのくらい医師としての素養を身に着けられる環境・教育なのかに重点を置いて判断したいです。

他にアメリカで医師を目指す場合懸念していた点は、大学院受験です。

アメリカの医学大学院は倍率がとても高く、留学生に対しては枠がより少なく設定されているのでさらに門戸が狭くなっています。

出願準備として医学研究やボランティア活動に精力的に活動したり、アメリカのPre-medコースを好成績で卒業したりしても、大学院に合格できる保証、つまりは医師の資格が得られる保証はありません。

私は必ず医師免許を取得して将来臨床をやりたいと思っていたので、無事卒業すれば医師免許を取得できる環境で早く医学を学びたかったです。

 

最近日本人留学生が増えている東欧諸国

チェコハンガリースロバキア等の医学部に進学する日本人の学生が、近年少しずつ増えています。

私の周りで東欧の医学部に出願する人はいなかったのですが、以前取材いただいた医学部受験雑誌のほかの記事で読んだことがあり、「こんな国の選択肢もあるんだな」と驚きました。

英語で医学が学べること、学費や物価が安いこと、日本の医学部に比べて入学が簡単であること等が魅力であるようです。

なぜ私は東欧諸国を選ばなかったのか

日本人の先輩が多くいるのであればキャリア相談が出来そうで心強く思いましたが、一番のネックは現地の言語でした。

現地の患者さんを診て、症状の把握だけでなくその人に合った治療の提案をするためには、円滑なコミュニケーションが欠かせません。

しかし、英語での医学の勉強と並行してその国の言語を習得することは大きな負担ですし、将来その言語を生かし東欧に残って臨床医として働く考えはなかったので、英語圏の医学部で患者さんを診る経験を積みたいなと思いました。

 

最終的に選んだイギリス

イギリスは、

という条件を2つとも満たしていました。

また、日本の医学部と比べると、

  • 臨床実習の期間が長い(大学のシステムにもよるが在籍期間の半分以上)
  • 医学研究をしながら1年間で理学士号を取得できる仕組みがある
  • コミュニケーション能力、倫理性といった医師としての素養を重視している

といった特徴も魅力的でした。

しかし、イギリスの大学では、国内生と比べて留学生の学費が高く設定してあるうえ(UCLの医学部では国内生の4倍)、留学生は大学の奨学金制度をほとんど利用できません。

そのため、出願先としてイギリスの大学が有力候補になった時に、イギリスへの学部正規留学を対象としている奨学金を探し始めました。

 

検討しそびれた国

学部課程から医学を学べる英語圏の国は他にもあり、例えばオーストラリアが挙げられます。

UCLの結果待ちの期間に、学校の先生から「もしイギリスがだめでも、南半球で始業時期が異なるオーストラリアならまだ出願が間に合うのではないか」と言われ、なるほどと思いました。

好待遇や暮らしやすさを求めてイギリスの医師が移住するケースを頻繁に聞くので、今となっては、もっと早くオーストラリアという選択肢に気づいて候補に含めれば良かったなと思ったりもします。笑

 

最後に

留学先選びで重視する点は人によって様々かと思いますが、参考になれば嬉しいです!

医学生としてコロナ対応のお手伝い ③病院外でのボランティア

イギリスでは、ロックダウンのおかげか1月上旬から徐々に感染者数が劇的に減っており、また最近になってやっと死者数も減少に転じています。

病院への負担もピーク時に比べると軽くなりましたが、依然として緊急治療室では人手が不足しているので、医学生の病院でのお手伝いは今後も実習と並行してしばらくの間継続される予定です。

 

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 ↑先日朝7時半ごろの朝焼けがとても鮮やかでした!

 

今回は、特に最初の感染拡大の際(昨年春~夏)に盛り上がった、病院外やオンラインでの医学生のボランティア活動について紹介したいと思います。

 

病院外のボランティアの必要性とメリット

医療は、病院内だけでは決して完結しないもので、特にパンデミックのような公衆衛生危機には社会全体で一丸となって感染予防や医療体制支援に努める必要があります。

病院内での活動には、医学生の中でも臨床実習を既に開始している高学年の学生しか参加できません。

しかし、病院外やオンラインの活動であれば、

  • 臨床実習をまだ開始していない低学年の学生
  • イギリス国外でオンライン授業を受けている学生
  • 重症化リスクが高い家族と同居している学生

等、さらに多くの学生が協力できます。

昨年春は臨床実習を開始していなかった私も、3月末以降日本から試験勉強の合間を縫ってオンラインでの活動に参加していました。

 

医療従事者の買い出しのお手伝い・ベビーシッター

勤務時間が長くなった医療従事者は、日々の食料品の買い出しや、休校になり家で過ごす子どもの世話に、思うように時間を割けなくなっていました。

そこで、春に立ち上がった以下のプラットフォームを活用して、授業がオンラインに移行または中止となった医療系学生が、代わりにスーパーに買い物に行ったり、子どもやペットのお世話をしにお家を訪問したりしていました。

 

www.nationalhealthsupporters.co.uk

 

知らない学生を家に入れることに抵抗がある方もいると思いますが、かねてから学生のボランティア活動が盛んなイギリスでは、対面のボランティア活動を開始する前に、学生は犯罪経歴証明書を提出する仕組みが整っています。

そのため、(もちろん100%保証はできませんが)学生ボランティアを信頼しやすい仕組みとなっています。

 

PPE(Personal protective equipment:個人用防護具)の再分配

日本でも医療従事者用のPPE(マスク、手袋、ガウン等)が不足し、COVIDの患者さんに対応する場合の十分な装備が用意できないと報道がありましたが、イギリスでも同じ現象が起こっていました。

民間施設(建設会社、工場、研究所等)に予備のPPEが余っていることに目を付け、PPEの寄付を募り、集まったPPEを病院に再分配するチャリティー活動が、医師と医学生によって行われました。

www.medsupplydrive.org.uk

  • 参加する上での研修
  • 寄付の呼びかけ
  • PPEを持っている施設との連絡

など活動の多く(PPEの収集と分配以外)がオンラインで行われたので、場所を問わず協力することが出来ました。

この団体のページによると、50万個以上のPPEが最前線でコロナ対応に追われる病院に届けられたそうです!

 

最後に

医療が逼迫している時には、直接現場でお手伝いをすることも、医療従事者が集中して安全に仕事に取り組める環境を整えるお手伝いをすることも、両方大切だと思います。

私と同じ立場の医学生が上記のような活動を立ち上げていると思うと、医療を取り巻く社会でのニーズに気づく観察力がまだまだ私には足りないなと感じます。

置かれている状況に理由をつけて行動しないこともできますが、難しい状況でも出来ることを模索し続ける人材に成長していきたいです!

どうしてUCLの医学部を選んだの? ①日本か海外か

「イギリスの医学部に在籍する日本人なんてあまり聞かないけれど、どうしてUCLの医学部に進学したの?」

これは、初対面の方にほぼ必ず聞かれる質問です。

 

私は小学生から「将来はお医者さんになりたい!」と思っていましたが、高2でインドに留学するまでずっと日本で過ごしていたので、当たり前ですが日本の医学部合格を目指して勉強していました。

実は、海外の医学部への出願を具体的に考え始めたのは、インドの高校卒業1年を切り、イギリスの医学部の出願締め切りまで3か月を切った時期でした。

 

「どうしてUCLの医学部を選んだのか」という質問に対して、

  • 日本の医学部受験を考えていたが海外の医学部に出願した理由
  • イギリスという国を選んだ理由
  • イギリスの医学部の中でUCLに出願した理由

に分けて、私の当時の考えを共有したいと思います。

今回は、日本の医学部を受験する場合に私が検討していた入試方法と、海外の医学部受験に踏み切った経緯を紹介します。

 

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↑UCLのメインビルディング

留学経験を生かせる日本の医学部入試方法

国際バカロレア入試

私は、インドのインターナショナルスクールで2年過ごした間に、国際的な高校卒業資格である国際バカロレア(IB)を取得しました。

この国際バカロレアを使った入試方式では、最終試験の得点やExtended Essay(EE:IBで課される卒論のようなもの)の内容を踏まえて選考が行われます。

筑波大学順天堂大学東北大学岡山大学等の医学部で採用されていて、書類審査、学力審査、面接等が課されます。

履修科目や各科目での最低成績が出願条件となっている場合が多いので、大学ごとに確認が必要です。

年々国際バカロレアの認知度が上がっているので、国際バカロレア入試を行う大学が増えているようです。(東京医科歯科大学横浜市立大学、愛知医科大学等)

帰国生入試

国際バカロレア入試とは別に、帰国子女を対象とした帰国生入試も受験するつもりでした。

多くの国立大学で募集がかかっていますが、

  • 海外滞在年数や滞在学年
  • 単身留学か親の都合か

といった出願条件が大学によって異なったので、私は2年間の単身留学で受験可能な医学部を探していました。

また、国際バカロレア入試、帰国生入試ともに募集は大半の場合「若干名」なので、一般受験に向けても勉強するつもりでした。

 

将来海外でキャリアを積むにあたって

’2023年問題’

ちょうど私が医学部を卒業する2023年に、アメリカでの医師免許試験であるUSMLEの制度が変更され、一定の基準を満たした医学部の卒業生のみに医師免許試験の受験資格が与えられるようになります。

日本には、私が出願した当時この基準を満たしている大学が1つもなかったので、将来日本の医学部を卒業した医師がアメリカで臨床医として働くことができない「2023年問題」が取り沙汰されていました。

日本の医師免許の互換性

元々、日本の医師免許のみを持って海外で臨床を行える事例はあまりありません。

例外的に、日本が二国間協定を結んでいるイギリス、フランス、シンガポールの3か国では、人数を制限しているものの日本の医師免許で働くことができます。

また、世界中から集めた医療チームを緊急支援を要する地域に派遣する国際団体「国境なき医師団」に参加する際は、日本の医師免許を使って派遣国で治療が行えます。

2023年問題や日本の医師免許の互換性の低さから、もし日本ではなく海外で免許を取得すれば、医師として将来他国で働く場合より多くの選択肢を考慮できるのではと考えました。

 

まずは海外に挑戦してみよう

オープンキャンパスの感触

医師として国際医療に貢献したいと考えていたので、インド留学中の夏休みに、特に国際交流に力を入れていると聞いた日本の医学部のオープンキャンパスに行きました。

海外医学部や医療機関へ大学の留学プログラムで留学した医学生の発表を聞いて、その日本の大学にさらに惹かれたのではなく、「海外の医学部に進学すれば良いのでは?」と感じてしまいました。

留学先での医学に関する学びについて聞きたかったのに、語学習得や他国の留学生との交流ばかりに焦点が当たっていたことが残念だった記憶があります。

恩師の一押し

そんな矢先、日本の高校時代にお世話になっていた英語の塾の先生と再会しました。「国際バカロレアの資格やインドでの経験を生かして、海外大に進む方が能力を伸ばせるのではないか」「国際化が進む中で、海外で医学を学んだ視点が将来日本で働くとしても役に立つはず」と力強く応援していただけました。

年度初めの時期が異なる関係で、海外の大学の合否が出た後に日本の医学部に出願し始めるスケジュールだったので、まずは海外の医学部に挑戦してみようと決めました。

 

UCLへの進学が決まった後、その塾の卒業生としてインタビューしていただいた記事がこちらです!

 

 

 

オンライン授業でも臨床手技を習得したい!

新型コロナウイルスの感染が再拡大したことを受け、政府の方針で大学の対面授業は2月下旬まで中止されています。

医学部等実習を必要とする一部のコースはこのルールの例外とされていますが、それでも学生間での感染拡大を防ぐために、講義やチュートリアルは出来る限りオンラインに移行しています。

私も、オンラインのケースディスカッションや講義に出席していますが、clinical skills (臨床手技)のオンライン授業がとても独特なので笑、その様子をお伝えしたいと思います。

 

オンライン授業で扱った臨床手技

臨床手技の授業をオンラインで行うために、年度初めに必要な医療器具一式が配布されました。

しかし、処置を行う対象の患者さんの体やその模型は各自用意することが出来ません。そのため、なんと野菜や果物で代用して練習しました。

 

縫合

実際には皮膚を縫うところですが、バナナの皮で代用しました。

バナナが熟れていたからか、ピンセットで持ち上げたり糸を引っ張ったりすると簡単に皮が切れてしまって難しかったです。

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バナナの中身までは糸が到達していなかったので、この後バナナケーキにして美味しくいただきました。笑

 

Catheterisation(尿道カテーテル

一度半分に切ったきゅうりの中身をくりぬいて、再度テープで固定したものを尿道に見立てて練習しました。

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イギリスのきゅうりは日本のものより大きくて太いので、くりぬいても簡単に壊れませんが、中身をくりぬきすぎたせいか上手く挿管できませんでした。

挿管後にカテーテルの先にあるバルーンを膨らませる手順は身に着けることが出来ました。

 

筋肉注射

オレンジやレモンといった柑橘系のフルーツに針を刺しました。

野菜や果物を人体に見立てて、針を刺す前にアルコール除菌シートで患部を拭いたり、針を抜いた後ガーゼをあてたりするのは何度やっても慣れません。笑

 

番外編

先日大学の授業とは別に、家で縫合の練習をする医学生向けのオンラインセッションに参加しました。

オンライン授業の充実度を向上させ効果的な指導を行うために、ケンブリッジ大学の先生がリサーチの一環として企画したそうです。

事前に練習キットが自宅に郵送で送付され、当日の参加方法やスケジュールについてはメールでやり取りをしました。

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↑バナナよりしっかりした縫合練習パッドが送られてきました。笑

パソコンのカメラで私の手元を映しながら参加したところ、練習中に個別のフィードバックを受けられたので、楽しく学ぶことが出来ました。

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↑Interrupted sutures(結節縫合)を繰り返し練習しました。少しずつ上達していきたいです…!

 

最後に

本当は実習先の病院にあるclinical skills centreという施設で、模型や実際の器具を使って練習する予定でした。

もちろん、野菜や果物で練習したレベルでは患者さんに実際に処置を行うことはできないので、今後感染状況を鑑みながら、病院施設での練習が順次再開される予定です。

すでに順序は習ったので、先生の目の前で模型を使ってデモンストレーションをし、合格をいただけると晴れて現場で患者さんに対して処置を行うことができます。

医学部を卒業するまでに身につけなければいけない手技のリストを全てこなせるよう、スタートは少し遅れてしまいましたが実習中に貪欲に経験を積んでいきたいです!