まーしーのロンドン大医学部生活

University College London医学部6年生のロンドン生活、医学部での経験をお伝えします!(内容は個人の見解に基づくものであり、所属組織・その他団体と一切関係ありません)

ケープタウンでの選択実習 ②小児がん@小児病院

前回の記事では4週間の総合病院での小児科の経験についてまとめましたが、今回はその後2週間実習を行った小児腫瘍科での経験についてお話ししたいと思います。

 

ケープタウンの小児病院 Red Cross War Memorial Children's Hospital

↑病院の後ろにはテーブルマウンテンが見えます!

この病院はアフリカで最も歴史のある公立小児病院で、小児科の様々な専門治療を担っているため、南アフリカだけでなく近隣のアフリカ南部の国からも患者さんが集まっています。

多方面からの寄付金で高度医療を賄っているため、病院の正面玄関や各病棟への入り口には寄付者のリストがあり、手術室や集中治療室はそれぞれどの団体の寄付によって作られたかが明記されていました。

 

初めての小児腫瘍科での実習

ロンドンでの小児科ローテーション中に小児がんの講義は受けたものの、実際に小児がん専門病棟で実習する機会はこれが初めてでした。

  • 血液がん疑いの患者さんに対して行う一連の検査(骨髄生検、腰椎穿刺、リンパ節生検など)の補助
  • 親御さんに向けた小児がんの種類や今後の治療方針に関する説明への同席
  • 就学年齢の入院患者さん向けの学習サポートのお手伝い

小児がんの診断から治療まで触れることができ、また、小児がんの治療が終わった子どもが皆の前でベルを鳴らしお祝いする瞬間にも立ち会いました。

患者さんを亡くす場面は医療従事者にとっても辛いですが、子どもや家族と長期的な関係性を築き、治療だけでなく日々の生活にも手を差し伸べられるとてもやりがいのある科だと思いました。

伝統医療 VS 現代医療

中には固形腫瘍がかなり進行して外見がすっかり変わってしまってから病院に初めて連れてこられる患者さんもいました。

小児科の先生によると、南アフリカの中では医療にすぐにアクセスできないからというよりも、地域の呪術医による伝統医療を色々と試した後に病院を頼るから診断や治療が遅れることが頻繁にあるそうです。

伝統医療を頭ごなしに否定しても解決策は見えないので、どうしたら伝統医療と現代医療を共存させ、呪術医との連携体制を組んで早期発見・治療に結び付けられるか、患者さんや家族のニーズや価値観を踏まえた治療を提供できるか、が今の課題だとおっしゃっていました。

アフリカ内での小児科フェローシッププログラム

小児腫瘍科のチームには、ボツワナやマラウィの出身で、母国の小児科専門医資格を取ったあと、小児腫瘍の専門性を高めるためにRed Cross Hospitalにフェローとして来ている先生方が何人かいらっしゃいました。

お話を伺うと、「母国には小児腫瘍科医になるためのトレーニングプログラムはおろか小児がんを専門的に扱える病院もなかなかないため、Red Cross Hospitalで専門性を磨いて将来母国の小児腫瘍の治療体制や次世代の育成に取り組む」とおっしゃっていて、私がこういった先生方に交じってどうしたら将来国際小児保健に貢献できるのか、自問するきっかけになりました。

 

小児緩和ケアを行うNPO団体での一日

残念ながら積極的な治療を続けられない患者さんが小児病院でもいらっしゃいますが、その際身体的・精神的苦痛を取り除く緩和ケアを行う「小児緩和ケア医」のポストがまだRed Cross Hospitalにはありません。

公立病院における診療科の設置や職員数の増減については政府機関からの認可が必要で、2-3年ほど前から小児緩和ケア科の設置を訴えているものの、時間がかかっているそうです。

正式な認可が下りるまでの間にサービス提供体制を整えるべく、現在は、小児科専門医、アロマセラピスト、ソーシャルワーカーなどがPaedsPalというNPO団体を立ち上げて、Red Cross Hospitalの患者さんに対応しています。

私は日本の小児病院を見学した際、小児ホスピス・緩和ケア科が日本でも少しずつ周知され海外での事例を参考にケアの拡充が行われていることを知ったので、今回このNPO団体を一日見学することにしました。

カウンセリングでは、現在の養育環境や今後のマネジメントプランの方向性について、それぞれの親子にとってより良い選択を一緒に模索する、という小児科医の先生の姿勢が印象的でした。

特に、患者さんの苦痛の緩和だけでなく、親御さんの精神的負担や周囲からのサポート体制について時間をかけて聞き出していたので、「Paedspalスタッフと患者・家族が同じ方向を向いて一緒に歩む」というモットーを体感しました。

ちょうど私が伺った日にドイツの音楽療法の学生(元ハープ奏者だそうです!)もいて、小児緩和医療に興味を持った経緯やケープタウンでの経験について話し合えて楽しかったです!

 

まとめ

小児がん治療の知識や経験を得られただけでなく、患者さんとの交流を通して治療の大変さや現代医学の限界を目の当たりにしたり、専門医の先生方と交流を深めて色々とキャリアのアドバイスをいただいたりと、医学部卒業前にこれからの道を考え直す機会となりました。

Red Cross Hospitalではアフリカの中で先進的な小児がん医療を学べ、また前回お話ししたVictoria Hospital Wynbergではより地域に根差した小児医療を体感できたので、いつか南アフリカに戻って貢献できるように、イギリスでの初期研修中も常に国際保健への熱意は持っておきたいなと思います!