まーしーのロンドン大医学部生活

University College London医学部6年生のロンドン生活、医学部での経験をお伝えします!(内容は個人の見解に基づくものであり、所属組織・その他団体と一切関係ありません)

ケープタウンでの選択実習 ①小児科@総合病院

ここ数か月で南アフリカ→日本→イギリスと転々とし、先月の卒業式を経て今月頭からはイギリス南部の街で初期研修医として働き始めました!

医学部生だったころのエピソードをなるべく忘れないうちに書き記しておきたいと思います。

今回は、ケープタウンで行っていた6週間の実習のうち、総合病院の小児科で過ごした最初の4週間についてです。

 

実習を行ったVictoria Hospital Wynberg

ケープタウン大学の海外医学実習生として、ケープタウン中心部から車で20分ほど南下したところにあるVictoria Hospital Wynbergの小児科で病棟管理や外来診察を行いました。

↑病院の正面玄関。朝の雲がきれいです!

小児科には、専門医の先生が各週2人ずつ、小児科プログラムへの合格を目指して経験を積んでいる段階('Medical Officer'と呼ばれています)の先生が2人、卒後3年目の地域医療研修中の先生が1人、初期研修医の先生が各週3人ほど、そしてケープタウン大学の医学部6年生が3人いました。

どの先生もとても気さくに接してくださり教育熱心だったので、週を重ねるにつれて病棟回診でのプレゼン、検査、外来診察などを初期研修医の先生と同じくらい任せてもらえました。

4週間の実習を通して私が感じた南アフリカとイギリスの小児医療の違いについて、まとめたいと思います。

ちなみに、小児科の外来の待合室にはポップな絵が描いてあるのは万国共通のようです!

 

子どもの症状から考える鑑別疾患の違い

病棟回診中や毎週水曜のケースディスカッションでは、イギリスと南アフリカでの小児医療の違いについて小児科医の先生方と議論ができてとても学びが多かったです。

例えば、「子どもの発育不全」と聞いたときに、

  • WHOの成長率チャートに基づいたグラフに、月齢と体重・身長を書き込んでトレンドを見る
  • ちゃんと母乳を吸えているか確認する

という所は一緒なのですが、その原因の鑑別診断として、イギリスでは、

  • 欧米で有病率が高く消化吸収に影響する疾患(セリアック病、嚢胞性線維症など)
  • 染色体異常

などを考慮することが今までの実習で比較的多かったところ、南アフリカでは、

  • 家庭環境(特に親のアルコール・薬物中毒によるネグレクト)
  • HIV
  • 結核

がまずTOP3として挙がりました。

小児科医の先生の経験則によると、特に子どもがいきなり寄生虫を嘔吐・排泄し始めた場合は、結核の感染に気付いた寄生虫が体内から逃げ出しているサインかもしれないため、結核をまず疑うそうです。

 

入院している子どもの年齢層の違い

私がイギリスで実習していた小児科の入院患者を思い起こすと、幼稚園から小学生くらいの子どもが大半だったのですが、ケープタウンの病院では8割ほどが3歳以下でした。

(南半球のため)秋から冬への季節の変わり目ということもあり、胃腸炎や喘息で入院する子どもが多く、家の衛生環境や喘息向け吸入器の使用状況について親御さんとお話しすることが多かったです。

 

子どもの家庭環境の複雑さ

ロンドンでは6週間、ケープタウンでは4週間の小児科実習だったので、この短期間の経験だけで断定はできませんが、子どもの養育環境が複雑なケースに立ち会うことが多かったように思います。

  • 兄弟や実の両親と離れ離れで親戚の叔母(?)に育てられているはずがネグレクトになってしまっているケース
  • 10代前半で出産した少女が自身の産後うつや赤ちゃんの不調で何度も入退院を繰り返すケース

などを受けて、目の前の患者さんへの包括的・継続的な支援を地域のヘルスワーカーと協議するだけでなく、根本的な課題解決のために他病院、大学、行政との議論に繋げている仕組みを使って、小児科医の先生が「地域を診ている」姿がとてもやりがいがありそうだと思いました。

こういったセンシティブな話題を扱う場面が多いにもかかわらず、病棟にはベッドが仕切りなしに隣り合って並び、外来診察は1つの部屋の中で複数机を置いてわいわいと行われるという状況に文化の差を感じました。

 

まとめ

救急外来にやってきたり地域のクリニックから紹介されてきたりした患者さんを入院患者として受け入れる総合病院で、様々な小児の疾患や養育環境に向き合うことができ、ケープタウンの医師・医学生と良い関係を築けた4週間でした。

「地域のアクターを巻き込んで子どもとその家族を支えていく」「臨床医としての経験を活かしつつ公衆衛生の視点から地域を俯瞰する」といったところに私は興味があるのだな、と再確認する機会にもなりました。

↑一緒に小児科で実習していたケープタウン大学医学部6年生と仲良くなり、夕日の名所であるSignal Hillに行きました!