宗教や伝統と医療が交わるとき ②女性器切除(FGM)
ロンドンは今週30度超えの日が続き、エアコンなし・熱気がこもる自室での勉強はかなりつらかったです…日本から持ってきた麦茶パックが大活躍しました!
さて、前回はラマダン開催時の糖尿病や血液検査の対応について書きましたが、今回は伝統儀式が医療現場で問題になる事例として、FGMについて書きたいと思います。
FGMとは?
日本で生活しているとあまり聞きなれないアルファベットの並びかと思いますが、 Female genital mutilation(女性器切除)は、”アフリカや中東、アジアの一部の国々で行われている、女性の性器の一部を切除してしまう慣習”です。(引用:ユニセフ)
「大人の女性として社会の一員になるため」という目的で主に行われますが、出血や感染症といった身体的な被害だけでなく、精神的な傷が深く残る場合も多いです。
厳重な社会規範に逆らえない女の子の権利を守るため、国際機関・団体が根絶を目指しており、最近ではFGMを違法をするアフリカの政府も増えてきています。
医学生がFGMを学ぶ意義
イギリス国内でFGMはもちろん違法とされています。
しかし、色々な人種・出身の患者さんがいるため、「産婦人科・泌尿器科系の症状を訴えて受診した移民の患者さんの身体診察をしたところ、FGMの痕跡が見つかった」という事例が少なからずあります。
そのため、医学生もFGMに関する知識を身に着け、どのように対処するか学ぶ必要があります。
FGMを受けた患者さんを見つけた場合の対処
患者さんを守る
FGMを受けた痕跡を持つ患者さんについて、イギリス国内に数か所あるFGM専用外来にReferralを出します。
そこでは、身体症状の治療に加え、様々な言語で個人カウンセリングやピアサポートなど多様な精神ケアを受けられるそうです。
子どもを守る
また、忘れてはいけないのがその患者さんの娘や妹等子どもたちの存在です。
イギリスで暮らしている女の子が一時的に自国に戻ってFGMを受ける場合もあるので、FGMを受けた患者さんには、
「娘さんや小さい女の子は周りにいますか?」
「そのような女の子がFGMを受けることについてどのように考えていますか?」
と質問してリスクアセスメントを行います。
(ちなみに、私が実習中に出会った患者さんは、「娘たちにこんなに痛くて後遺症もある儀式を受けさせるつもりは毛頭ない」とおっしゃっていました…)
もちろん医療現場だけではリスクにさらされた女の子たちを守り切れません。
そのため、例えば学校現場では、もしFGMの慣習がある国にルーツを持つ児童が「今度自分の国に戻って大人になる準備をするんだ」等と発言をしたら、先生が対処・リスクアセスメントを行わなければいけません。
まとめ
国際保健に興味があるのでFGMについては以前から知っていましたが、イギリスでの実習中に身近な問題として捉えることで、医師として果たすべきセーフティネットの役割を再認識しました。