まーしーのロンドン大医学部生活

University College London医学部6年生のロンドン生活、医学部での経験をお伝えします!(内容は個人の見解に基づくものであり、所属組織・その他団体と一切関係ありません)

宗教や伝統と医療が交わるとき ①ラマダン

イギリスの医学部の特徴について、カリキュラムについては今まで別の記事でお話してきましたが、臨床実習中に「おそらく日本の医学部では触れることが少ないだろうな」と思った経験についていくつか紹介したいと思います。

今回は、ラマダンについてです。

 

ラマダンとは?

ラマダンとは、イスラム教徒が日の出から日没まで飲食を控える期間で、今年は4月2日から5月1日と決まっていました。

イギリスではどんどん日が長くなる時期なので、特に終盤は朝4時ごろから夜8時半ごろまで断食しなければならず、とても大変だと思います。

日の出前に食べる食事をSuhoor、日没後に食べる食事をIftar、ラマダン明けのお祭りをEidと呼び、ムスリムが多いイギリスのスーパーではEidキャンペーンも行われます。

私の同級生にもムスリムの子は多いのですが、日中飲まず食わずでの臨床実習と、日没後の宗教行事を両立している姿を本当に尊敬します。

全員断食しないといけないの?

基本的にイスラム教徒であれば全員断食をしますが、例えば、

  • 幼い子ども(思春期を迎えるころに個々の判断で参加し始めるようです)
  • 生理中の女性
  • 妊婦
  • 長距離移動中の人
  • 重い病気のある人

等、断食による健康リスクがある人は断食しなくてもよいことになっています。

 

糖尿病のマネジメント

ロンドンでは、2型糖尿病を持つ患者さんが「断食に参加したいから薬を調整してほしい」とかかりつけ医に相談するケースがよくあります。

通常、糖尿病の薬の服用やインスリン注射は日中に何度も行うものですが、長い時間食べ物を口にせずに薬だけ服用してしまうと、低血糖の危険があります。

患者さんが断食しても安全かどうかは、

  • 普段の血糖値
  • 常用している薬
  • 糖尿病の合併症の有無

等様々な要素に依るので、断食をする前に医師に相談するべきと言われています。

安全に断食できると判断した場合は、薬の量や飲む時間帯を調整し、患者さんに以下のような内容を伝えます。

  • 最低1日4回血糖値を測ること
  • 血糖値が低すぎるもしくは高すぎる場合はすぐに断食をやめること
  • (一般的にSuhoorやIftarに食べられる)揚げ物・甘いもの・炭水化物に偏った食事は出来るだけ避け、全粒粉の炭水化物や野菜を摂ること
  • 万が一に備え、低血糖対処セットや糖尿病患者カードを常に持ち歩くこと

日本でも糖尿病持ちのムスリムの方はいらっしゃると思いますが、医学生でもこの問診に参加し、また試験でも問われる(かもしれない)というのはイギリスならではと思いました。

 

血液検査

ラマダンというと断食のイメージが強いですが、飲食以外にも性行為や喫煙も禁じられています。

加えて、どうしても必要な場合を除いて献血も避けるよう言われているそうで、「同じように体内から血液を抜いている」という理由から、ある患者さんが血液検査を延期できないか相談してきたことがありました。

病気の原因を探るために血液検査を行うのでルール上問題ないはずですが、ラマダン明けに検査を延期しても健康上のリスクがないと医師の先生が判断し、患者さんの意向を尊重することになりました。

 

まとめ

日本で育った私にとって、ラマダンのような大きな宗教行事を中心に回る生活は縁遠かったのですが、インドやイギリスでの生活で、人々の価値観やニーズを理解するうえでとても大切な要素であると日々実感しています。

検査・治療方針に選択の自由を残し患者さんの希望を最大限叶えつつ、健康をしっかり守れる知識とコミュニケーション力を持った医師になりたいと思います。

 

おまけ:先週のPlatinum Jubileeの様子

エリザベス女王即位70周年を記念して、街中がお祝いムード一色になりとても華やかでした!