どうしてUCLの医学部を選んだの? ②国選び
「どうしてUCLの医学部を選んだのか」という質問に対する答えとして、前回は海外の医学部に挑戦する決断に至った経緯をまとめました。
今回は、海外とひとくくりに言っても様々な国の選択肢がある中で、私が留学先として検討した国や、最終的にイギリスの大学に出願することにした理由を紹介したいと思います。
↑医学部の面接でリーズに行ったとき。冬のイギリスの気候&アクセントに困惑しました…笑
大学留学で一番メジャーなアメリカ
私が通っていたインドの高校では卒業生の多くがアメリカの大学に進学しましたし、日本でも留学というと真っ先にアメリカが頭に浮かぶ人が多いのではないかと思います。
アメリカには医学や公衆衛生で世界的に有名な教育・研究機関が多く存在しますが、医学を学び医師になろうとする場合、過程が日本と全く異なります。
日本の医学部では、(高校卒業後)学部課程で医学を専攻し6年間で医師免許を取得できますが、アメリカでは大学院で医学を専攻します。
そのため、学部を卒業した後医学大学院で勉強することになるので、免許取得までに学部4年+大学院4年=計8年間かかります。
学部課程の4年間には、Pre-medと呼ばれる医学部準備コースで医学の基礎となる生命科学や生化学等を専攻する学生が多いと聞きますが、全く医学とは関係ない専攻から医学大学院に出願する学生もいます。
私はなぜアメリカを選ばなかったのか
まず、一番大きな理由は、医師免許取得までにかかる8年間という年数です。
医学部卒業後も、医師として一人前になるまでに初期研修や後期研修とかなりの年月を要するので、それなら6年間で免許を取得できる日本の医学部の方が早く勤務経験を積めるなと考えていました。
しかし今同じ決断を迫られるのであれば、医師として生涯働く場合専門医になってからの期間が長いことを考慮して、医学部を何年間で卒業するかより、医学部在籍中にどのくらい医師としての素養を身に着けられる環境・教育なのかに重点を置いて判断したいです。
他にアメリカで医師を目指す場合懸念していた点は、大学院受験です。
アメリカの医学大学院は倍率がとても高く、留学生に対しては枠がより少なく設定されているのでさらに門戸が狭くなっています。
出願準備として医学研究やボランティア活動に精力的に活動したり、アメリカのPre-medコースを好成績で卒業したりしても、大学院に合格できる保証、つまりは医師の資格が得られる保証はありません。
私は必ず医師免許を取得して将来臨床をやりたいと思っていたので、無事卒業すれば医師免許を取得できる環境で早く医学を学びたかったです。
最近日本人留学生が増えている東欧諸国
チェコ、ハンガリー、スロバキア等の医学部に進学する日本人の学生が、近年少しずつ増えています。
私の周りで東欧の医学部に出願する人はいなかったのですが、以前取材いただいた医学部受験雑誌のほかの記事で読んだことがあり、「こんな国の選択肢もあるんだな」と驚きました。
英語で医学が学べること、学費や物価が安いこと、日本の医学部に比べて入学が簡単であること等が魅力であるようです。
なぜ私は東欧諸国を選ばなかったのか
日本人の先輩が多くいるのであればキャリア相談が出来そうで心強く思いましたが、一番のネックは現地の言語でした。
現地の患者さんを診て、症状の把握だけでなくその人に合った治療の提案をするためには、円滑なコミュニケーションが欠かせません。
しかし、英語での医学の勉強と並行してその国の言語を習得することは大きな負担ですし、将来その言語を生かし東欧に残って臨床医として働く考えはなかったので、英語圏の医学部で患者さんを診る経験を積みたいなと思いました。
最終的に選んだイギリス
イギリスは、
- 学部課程から医学専攻
- 英語圏
という条件を2つとも満たしていました。
また、日本の医学部と比べると、
- 臨床実習の期間が長い(大学のシステムにもよるが在籍期間の半分以上)
- 医学研究をしながら1年間で理学士号を取得できる仕組みがある
- コミュニケーション能力、倫理性といった医師としての素養を重視している
といった特徴も魅力的でした。
しかし、イギリスの大学では、国内生と比べて留学生の学費が高く設定してあるうえ(UCLの医学部では国内生の4倍)、留学生は大学の奨学金制度をほとんど利用できません。
そのため、出願先としてイギリスの大学が有力候補になった時に、イギリスへの学部正規留学を対象としている奨学金を探し始めました。
検討しそびれた国
学部課程から医学を学べる英語圏の国は他にもあり、例えばオーストラリアが挙げられます。
UCLの結果待ちの期間に、学校の先生から「もしイギリスがだめでも、南半球で始業時期が異なるオーストラリアならまだ出願が間に合うのではないか」と言われ、なるほどと思いました。
好待遇や暮らしやすさを求めてイギリスの医師が移住するケースを頻繁に聞くので、今となっては、もっと早くオーストラリアという選択肢に気づいて候補に含めれば良かったなと思ったりもします。笑
最後に
留学先選びで重視する点は人によって様々かと思いますが、参考になれば嬉しいです!
医学生としてコロナ対応のお手伝い ③病院外でのボランティア
イギリスでは、ロックダウンのおかげか1月上旬から徐々に感染者数が劇的に減っており、また最近になってやっと死者数も減少に転じています。
病院への負担もピーク時に比べると軽くなりましたが、依然として緊急治療室では人手が不足しているので、医学生の病院でのお手伝いは今後も実習と並行してしばらくの間継続される予定です。
↑先日朝7時半ごろの朝焼けがとても鮮やかでした!
今回は、特に最初の感染拡大の際(昨年春~夏)に盛り上がった、病院外やオンラインでの医学生のボランティア活動について紹介したいと思います。
病院外のボランティアの必要性とメリット
医療は、病院内だけでは決して完結しないもので、特にパンデミックのような公衆衛生危機には社会全体で一丸となって感染予防や医療体制支援に努める必要があります。
病院内での活動には、医学生の中でも臨床実習を既に開始している高学年の学生しか参加できません。
しかし、病院外やオンラインの活動であれば、
- 臨床実習をまだ開始していない低学年の学生
- イギリス国外でオンライン授業を受けている学生
- 重症化リスクが高い家族と同居している学生
等、さらに多くの学生が協力できます。
昨年春は臨床実習を開始していなかった私も、3月末以降日本から試験勉強の合間を縫ってオンラインでの活動に参加していました。
医療従事者の買い出しのお手伝い・ベビーシッター
勤務時間が長くなった医療従事者は、日々の食料品の買い出しや、休校になり家で過ごす子どもの世話に、思うように時間を割けなくなっていました。
そこで、春に立ち上がった以下のプラットフォームを活用して、授業がオンラインに移行または中止となった医療系学生が、代わりにスーパーに買い物に行ったり、子どもやペットのお世話をしにお家を訪問したりしていました。
www.nationalhealthsupporters.co.uk
知らない学生を家に入れることに抵抗がある方もいると思いますが、かねてから学生のボランティア活動が盛んなイギリスでは、対面のボランティア活動を開始する前に、学生は犯罪経歴証明書を提出する仕組みが整っています。
そのため、(もちろん100%保証はできませんが)学生ボランティアを信頼しやすい仕組みとなっています。
PPE(Personal protective equipment:個人用防護具)の再分配
日本でも医療従事者用のPPE(マスク、手袋、ガウン等)が不足し、COVIDの患者さんに対応する場合の十分な装備が用意できないと報道がありましたが、イギリスでも同じ現象が起こっていました。
民間施設(建設会社、工場、研究所等)に予備のPPEが余っていることに目を付け、PPEの寄付を募り、集まったPPEを病院に再分配するチャリティー活動が、医師と医学生によって行われました。
- 参加する上での研修
- 寄付の呼びかけ
- PPEを持っている施設との連絡
など活動の多く(PPEの収集と分配以外)がオンラインで行われたので、場所を問わず協力することが出来ました。
この団体のページによると、50万個以上のPPEが最前線でコロナ対応に追われる病院に届けられたそうです!
最後に
医療が逼迫している時には、直接現場でお手伝いをすることも、医療従事者が集中して安全に仕事に取り組める環境を整えるお手伝いをすることも、両方大切だと思います。
私と同じ立場の医学生が上記のような活動を立ち上げていると思うと、医療を取り巻く社会でのニーズに気づく観察力がまだまだ私には足りないなと感じます。
置かれている状況に理由をつけて行動しないこともできますが、難しい状況でも出来ることを模索し続ける人材に成長していきたいです!
どうしてUCLの医学部を選んだの? ①日本か海外か
「イギリスの医学部に在籍する日本人なんてあまり聞かないけれど、どうしてUCLの医学部に進学したの?」
これは、初対面の方にほぼ必ず聞かれる質問です。
私は小学生から「将来はお医者さんになりたい!」と思っていましたが、高2でインドに留学するまでずっと日本で過ごしていたので、当たり前ですが日本の医学部合格を目指して勉強していました。
実は、海外の医学部への出願を具体的に考え始めたのは、インドの高校卒業1年を切り、イギリスの医学部の出願締め切りまで3か月を切った時期でした。
「どうしてUCLの医学部を選んだのか」という質問に対して、
- 日本の医学部受験を考えていたが海外の医学部に出願した理由
- イギリスという国を選んだ理由
- イギリスの医学部の中でUCLに出願した理由
に分けて、私の当時の考えを共有したいと思います。
今回は、日本の医学部を受験する場合に私が検討していた入試方法と、海外の医学部受験に踏み切った経緯を紹介します。
↑UCLのメインビルディング
留学経験を生かせる日本の医学部入試方法
国際バカロレア入試
私は、インドのインターナショナルスクールで2年過ごした間に、国際的な高校卒業資格である国際バカロレア(IB)を取得しました。
この国際バカロレアを使った入試方式では、最終試験の得点やExtended Essay(EE:IBで課される卒論のようなもの)の内容を踏まえて選考が行われます。
筑波大学、順天堂大学、東北大学、岡山大学等の医学部で採用されていて、書類審査、学力審査、面接等が課されます。
履修科目や各科目での最低成績が出願条件となっている場合が多いので、大学ごとに確認が必要です。
年々国際バカロレアの認知度が上がっているので、国際バカロレア入試を行う大学が増えているようです。(東京医科歯科大学、横浜市立大学、愛知医科大学等)
帰国生入試
国際バカロレア入試とは別に、帰国子女を対象とした帰国生入試も受験するつもりでした。
多くの国立大学で募集がかかっていますが、
- 海外滞在年数や滞在学年
- 単身留学か親の都合か
といった出願条件が大学によって異なったので、私は2年間の単身留学で受験可能な医学部を探していました。
また、国際バカロレア入試、帰国生入試ともに募集は大半の場合「若干名」なので、一般受験に向けても勉強するつもりでした。
将来海外でキャリアを積むにあたって
’2023年問題’
ちょうど私が医学部を卒業する2023年に、アメリカでの医師免許試験であるUSMLEの制度が変更され、一定の基準を満たした医学部の卒業生のみに医師免許試験の受験資格が与えられるようになります。
日本には、私が出願した当時この基準を満たしている大学が1つもなかったので、将来日本の医学部を卒業した医師がアメリカで臨床医として働くことができない「2023年問題」が取り沙汰されていました。
日本の医師免許の互換性
元々、日本の医師免許のみを持って海外で臨床を行える事例はあまりありません。
例外的に、日本が二国間協定を結んでいるイギリス、フランス、シンガポールの3か国では、人数を制限しているものの日本の医師免許で働くことができます。
また、世界中から集めた医療チームを緊急支援を要する地域に派遣する国際団体「国境なき医師団」に参加する際は、日本の医師免許を使って派遣国で治療が行えます。
2023年問題や日本の医師免許の互換性の低さから、もし日本ではなく海外で免許を取得すれば、医師として将来他国で働く場合より多くの選択肢を考慮できるのではと考えました。
まずは海外に挑戦してみよう
オープンキャンパスの感触
医師として国際医療に貢献したいと考えていたので、インド留学中の夏休みに、特に国際交流に力を入れていると聞いた日本の医学部のオープンキャンパスに行きました。
海外医学部や医療機関へ大学の留学プログラムで留学した医学生の発表を聞いて、その日本の大学にさらに惹かれたのではなく、「海外の医学部に進学すれば良いのでは?」と感じてしまいました。
留学先での医学に関する学びについて聞きたかったのに、語学習得や他国の留学生との交流ばかりに焦点が当たっていたことが残念だった記憶があります。
恩師の一押し
そんな矢先、日本の高校時代にお世話になっていた英語の塾の先生と再会しました。「国際バカロレアの資格やインドでの経験を生かして、海外大に進む方が能力を伸ばせるのではないか」「国際化が進む中で、海外で医学を学んだ視点が将来日本で働くとしても役に立つはず」と力強く応援していただけました。
年度初めの時期が異なる関係で、海外の大学の合否が出た後に日本の医学部に出願し始めるスケジュールだったので、まずは海外の医学部に挑戦してみようと決めました。
UCLへの進学が決まった後、その塾の卒業生としてインタビューしていただいた記事がこちらです!
オンライン授業でも臨床手技を習得したい!
新型コロナウイルスの感染が再拡大したことを受け、政府の方針で大学の対面授業は2月下旬まで中止されています。
医学部等実習を必要とする一部のコースはこのルールの例外とされていますが、それでも学生間での感染拡大を防ぐために、講義やチュートリアルは出来る限りオンラインに移行しています。
私も、オンラインのケースディスカッションや講義に出席していますが、clinical skills (臨床手技)のオンライン授業がとても独特なので笑、その様子をお伝えしたいと思います。
オンライン授業で扱った臨床手技
臨床手技の授業をオンラインで行うために、年度初めに必要な医療器具一式が配布されました。
しかし、処置を行う対象の患者さんの体やその模型は各自用意することが出来ません。そのため、なんと野菜や果物で代用して練習しました。
縫合
実際には皮膚を縫うところですが、バナナの皮で代用しました。
バナナが熟れていたからか、ピンセットで持ち上げたり糸を引っ張ったりすると簡単に皮が切れてしまって難しかったです。
バナナの中身までは糸が到達していなかったので、この後バナナケーキにして美味しくいただきました。笑
Catheterisation(尿道カテーテル)
一度半分に切ったきゅうりの中身をくりぬいて、再度テープで固定したものを尿道に見立てて練習しました。
イギリスのきゅうりは日本のものより大きくて太いので、くりぬいても簡単に壊れませんが、中身をくりぬきすぎたせいか上手く挿管できませんでした。
挿管後にカテーテルの先にあるバルーンを膨らませる手順は身に着けることが出来ました。
筋肉注射
オレンジやレモンといった柑橘系のフルーツに針を刺しました。
野菜や果物を人体に見立てて、針を刺す前にアルコール除菌シートで患部を拭いたり、針を抜いた後ガーゼをあてたりするのは何度やっても慣れません。笑
番外編
先日大学の授業とは別に、家で縫合の練習をする医学生向けのオンラインセッションに参加しました。
オンライン授業の充実度を向上させ効果的な指導を行うために、ケンブリッジ大学の先生がリサーチの一環として企画したそうです。
事前に練習キットが自宅に郵送で送付され、当日の参加方法やスケジュールについてはメールでやり取りをしました。
↑バナナよりしっかりした縫合練習パッドが送られてきました。笑
パソコンのカメラで私の手元を映しながら参加したところ、練習中に個別のフィードバックを受けられたので、楽しく学ぶことが出来ました。
↑Interrupted sutures(結節縫合)を繰り返し練習しました。少しずつ上達していきたいです…!
最後に
本当は実習先の病院にあるclinical skills centreという施設で、模型や実際の器具を使って練習する予定でした。
もちろん、野菜や果物で練習したレベルでは患者さんに実際に処置を行うことはできないので、今後感染状況を鑑みながら、病院施設での練習が順次再開される予定です。
すでに順序は習ったので、先生の目の前で模型を使ってデモンストレーションをし、合格をいただけると晴れて現場で患者さんに対して処置を行うことができます。
医学部を卒業するまでに身につけなければいけない手技のリストを全てこなせるよう、スタートは少し遅れてしまいましたが実習中に貪欲に経験を積んでいきたいです!
海外旅行保険で病院受診
渡英してから3年以上経ちますが、幸いなことに私は今まで一度も体調を崩したことがなく、イギリスで病院にかかったことがありませんでした。(もちろん実習では何度も行っていますが笑)
1月中旬に家で足をひねり、足の甲の真ん中の外側にあるcuboid bone (立方骨)の周りの靭帯を損傷してしまいました。
イギリスの医療サービスに患者としてお世話になった体験をまとめておきます。
イギリスの医療制度で海外旅行保険を活用
ひねった後少しずつ腫れが増していく足を見ながら、「コロナ対応で今忙しい病院で診てもらえるのか」という不安が頭をよぎりました。
怪我から一晩経ってもdorsiflexion(背屈:つま先を持ち上げること)が痛く立てなかったので、病院に行くことにしました。
イギリスの国民皆保険制度
イギリスには、NHS(国民保健サービス)と呼ばれる国民皆保険制度がありますが、2つ日本の保険制度と違うところがあります。
まず、日本は1割負担、3割負担と個人によって負担額が異なりますが、イギリスでは全員自己負担なしで医療を受けることが出来ます。
ビザ申請の際にNHS受診料を払っているので、留学生である私も同じ扱いです。
そして、イギリスにはGP(General practitioner: かかりつけ医)制度があるので、患者は受診する医療機関を選ぶことができません。
患者はどんな症状でも登録したGPをまず受診し、必要に応じて高等医療機関に紹介されます。例外的に、救急の場合は救急外来を利用します。
NHSの弱点をカバーするPrivate service
このNHSの仕組みで受診時に問題となるのが、待ち時間です。
以前登録先のGPで、アフリカ渡航のために予防接種を受けようとしたところ、1か月以上先しか空いていないと言われた記憶があります。
また、救急外来でも命に別条がない症状の場合、一晩待つこともあると聞きます。
そこで、イギリスには無料診療のNHSと並行して自費診療のPrivate serviceが存在し、日本のように、
- 自分で行く病院を選び、
- 比較的直ぐに診てもらう
ことができます。
日本の海外旅行保険のロンドンでの威力
Private serviceでの治療費はすべて患者負担になるので、私はこのPrivate service受診分をカバーする日本の海外旅行保険の留学生プランに加入しています。
ロンドンには特に日本人が多いので、日本の海外保険と提携した日本人用外来がいくつかあり、診察時キャッシュレスで日本人の先生に診ていただけます。
ズキズキorちくちくした痛みといった細かい症状を説明したり、治療方針について希望を伝えたり、海外生活に慣れた人でもけがや病気の時は母国語を話したくなることもあるかと思います。
私は朝病院に電話をかけたところ、午前中に診察していただけました。
イギリスの大学で学ぶ日本人医学生を珍しく思ったのか、日本人用クリニックの先生や看護師さんが沢山話しかけてきてくださったので、仲良くなりました。笑
海外旅行保険利用の注意点
ちょうど当日同じ病院の形成外科の外来診療に空きがあったので、専門医の先生に診ていただくことになりました。
この際、保険会社の提携先である日本人用クリニックの受診料は、すんなりと日本の海外保険でカバーしてもらえましたが、同じ病院の中でも他のPrivate serviceの専門医の診察を受ける場合は、保険会社に必要書類をお願いする必要があります。
自分で保険会社に電話して、
- 状況報告
- 受診した病院の名前
- 専門医の名前
- 支払い確約書を送付するメールアドレス
等の情報を伝え、すぐにGuarantee letter(支払い確約書)を病院と専門医宛てにそれぞれ1通ずつ送ってもらうようお願いしました。
書類が届くまで検査を始められなかったのですが、自分で後で書類をまとめて治療費を請求するのは大変と思い、待つことにしました。
おかげで、病院では一銭も支払うことなく、
の費用を保険でカバーできました。
↑足首を固定するためのこのブーツは、再利用にはコストがかかるので使い捨てみたいです…!
診察でちょっとがっかりしたこと
患者さんに問診をする際には、Social history(社会歴)というセクションで生活状況を確認するように習います。例えば、
- 日常生活に支障があるか
- 不自由な生活を強いられる場合、家族やソーシャルサポートに助けを求められるか
- 喫煙・飲酒・薬物使用の頻度や量
- 病気が仕事や学業に影響を及ぼしているか
といった質問をします。
私はロンドンのフラットで一人暮らしをしていますが、建物にエレベーターがありません。また、現在ロックダウン中なので気軽に友達の助けを呼ぶわけにもいきません。
しばらくブーツと松葉杖で家の中で過ごさなければならないので、もちろん日常生活や買い物に支障が出るわけですが、専門医の先生に上記のような項目を気にしていただけなかったのが残念でした。
この点は、反面教師にして、私が今後患者さんを問診する時に忘れずに確認したいと思います。
足を治してまた早くお散歩したいです!
医学生としてコロナ対応のお手伝い ②参加の決断とサポート
日本では医学生がコロナ対応に当たることはまだあまり現実的ではないと思うので、私一個人の視点から、イギリスの医学生がどのようにパンデミックを受けた医療現場の最前線で活動しているかまとめておきたいと思います。
①では、集中治療室(ICU)等でコロナの患者さんを診る前に私が行った準備について書きましたが、今回は、医学生がそもそも参加を決断する理由、また参加する場合医学部や病院から受けられるサポートについてまとめます。
コロナ対応は志願制
「学徒動員」に感じる違和感
「医療が逼迫したヨーロッパでは、医療系学生の学徒動員が起こっている」といった表現を日本のメディアで何度か目にしました。
しかし、戦時中に学生を強制労働させた学徒動員とは、少なくともイギリスの状況は少し違うと感じています。なぜなら、
- コロナ対応に参加するかどうかは個人の判断に委ねられている(志願制)
- コロナ対応と並行して、出来る限り病院実習を継続している
からです。
持病がある・感染すると重症化リスクが高い人と同居しているといった理由がある学生は勿論お手伝いが難しいと思いますが、特に理由がなかったとしても不参加を非難されることはありません。
連日のように医学部や病院のスタッフから届くメールには、
- コロナ対応に参加している生徒向けに「皆の頑張りがとても助かっています」「病院のスタッフから多くのお褒めの言葉が届いています」「コロナとの戦いは長くなりますので無理をしないでください」
- 参加していない生徒向けに「参加していないからと言って後ろめたさを感じる必要はありません」
といったメッセージが含まれていることが多いと感じています。
ではなぜ学生は自分から参加するのか?
「必須でもないのにわざわざ感染リスクの高い現場に行くなんて」という考えもあるのかもしれません。
しかし、私や周りの同級生の多くが、医療全体が逼迫している状況において学生でありながら貢献できることを嬉しく思っています。
通常の実習では、私たち医学生は現場の医療スタッフに教えていただく立場ですが、コロナ対応では、HCAの医学生を含む医療スタッフがそれぞれタスクを担当し、一丸となってこの危機を乗り越えようとしています。
そのため、最前線の現場でのチーム医療を体感し「私も医療を支えているんだ」とやりがいを感じる学生が多いのではないでしょうか。
もちろん、通常の実習では見る機会が少ない緊急処置や呼吸器具の扱いについて、実践的な知識を深められることも大きなメリットだと思います。
医学生のサポート体制
学生は実習と並行して新しい環境に身を投じることになるので、医学部や病院は様々な策を講じて学生の身体的・精神的負担が重くなりすぎないようにしています。
例えば、私が実習をしている病院では、
- HCAのシフトは週20時間までと定める(感染者数が急増して週30時間までに変更されましたが、全体平均は週20時間になるように各自調整)
- HCAの仕事を理由に実習を欠席した場合、後で追いつけるよう調整する
- ICUでの活動を振り返り、学生同士で体験を共有するセッションを毎週オンラインで開催する
- ICUで働く他の医療スタッフと同様、精神科医の先生と自由にお話しできる機会を設ける
といった仕組みがあります。
また、いつ感染していてもおかしくないため、ほかの病院スタッフ同様、週に2回LFT(Lateral flow test)を自宅で行い、陽性・陰性にかかわらず結果を報告するよう義務づけられています。
↑病院で配布される検査キット。右上の白いパッケージに入っている綿棒を使って、鼻の粘膜を採取します
↑採取した粘膜と検査液を混ぜたものをSの部分に乗せて、30分待ちます。抗原が検出されている場合は、Tの横に線が出現します。(写真は、Cの横にのみ線が出ているので陰性)
検査キットの見た目からも想像がつきますが、検出する物質が違えど仕組みとしては妊娠検査薬と同じです。
LFTは短時間で結果が分かる簡易的な抗原検査なので、これで陽性結果が出た場合は後日より正確なPCRで偽陽性ではないと証明することになっています。
まとめ
パンデミックも医学生のICU参加も、全員にとって初めてのことだらけなので手探り状態です。
そのような状況だからこそ、医学生と医学部・病院の間でコミュニケーションをしっかり取り、出来る限り医学生の支援を充実させたり不安を解消したりすることで、一丸となって医療を守ろうとしているように感じます。
医学生としてコロナ対応のお手伝い ①準備
ロンドンの感染状況はまだまだ回復の兆しが見えません...。
私の大学の附属病院の様子がBBCで取り上げられていました(日本語字幕付きです)。
病院のキャパを拡大して対応しているため、医療従事者もかなり身体的・精神的に疲弊している様子が伝わってきます。
医学生がどんなお手伝いをするの?
拡大する病床数や増加するコロナ入院数に対応するため、私の実習先の病院では、12月後半から医学生も志願制で主に集中治療室(ICU)でお手伝いをしています。
ICUの他にも、
- コロナの患者さんが入院している一般病棟でのお手伝い
- 患者さんの家族とする役割
- ワクチン接種のお手伝い
などの募集が随時かかっていますが、今一番人員を必要としているのはやはりICUのようです。
ちなみに、私の実習先の病院のICUでは、通常40床程度で看護師が1対1で治療に当たるそうですが、現在90人以上を受け入れているため、1人の看護師が時には3~5人に対応しているそうです。
ICUで必要とされる高度な処置や容体管理ができる看護師の人員不足を少しでも補うため、タスクを細分化し必要な資格や知識を明確にすることで、ほかの看護師や私たち医学生といった本来ICUで活動しない人材も活用できる仕組みを整えています。
医学生はHealth Care Assistant (HCA)として病院に臨時で雇用され、NHS(イギリスの国民保険サービス)の区分に則った時給をいただきながら、医学部のカリキュラムの病院実習の空き時間に参加しています。
普段行わないタスクをこなすことになるので、シフトを始める前に様々な準備を済ませる必要があります。
1.研修
資格や現在のポジションを基に同じカテゴリーに区分される人材の中でも、人によって経験や知識には差があるので、活動場所とそこでの活動内容別の研修を受ける必要があります。
一般病棟でコロナ対応に当たるための研修
- エプロン、手袋、マスクの着用と廃棄方法
- どのタイミングで手洗いをするか
- 効果的な手の洗い方、手を使わない蛇口の操作
- 個室のドアについている様々な隔離のサインの種類
等、普段の実習時にも教わる基礎的な内容が多かったです。
ICUでコロナ対応に当たるための研修
ICUは一般病棟と構造が異なり、また今は一方通行(入り口でPPEを身に着けて出口でPPEを廃棄する)となっているので、一通り内部を案内されました。
その後、
- Observation(観察:心拍、体温、呼吸数、酸素飽和度、血圧等)のチャートへの記入の仕方
- 集中治療が出来る看護師を呼ぶタイミング(容態の変化や呼吸器具のずれのサイン)
- 新規入院患者さんを受け入れるための器具の準備の仕方
- 患者さんの口腔ケア、体位変換のお手伝いの仕方
2.マスク着用テスト
COVIDの患者さんに直接触れ、近距離で過ごすことになるので、医学生もPPE(personal protective equipment: 個人防護具)を着用します。
コロナ対応に当たる学生だけでなく、コロナの患者さんを診る可能性がある科で実習を行う学生も、優先的に着用テストを受けます。
マスクは顔にぴったりフィットしていなければ意味がないので、色々な形やサイズのマスクから自分に合うものを知る必要があります。
着用テストでは、マスクの着用方法について教えていただき、実際にマスクを装着した後大きな透明な筒のようなものを被ります。
筒の真ん中に開いている穴から苦い味のするスプレーを30秒ごとに筒の中に噴射されるので、首を動かしたり、喋ったり、お辞儀をしたりして、苦い味がするかどうか確かめます。
つまり、このテストで苦い味がしてしまうと、同じようにコロナウイルスもマスク内部に侵入してしまうかもしれないため、違うマスクを試さなければいけません。
私は最初少し苦い味がしていたのですが、最後に筒の中でマスクを外したところ比べ物にならないくらい苦い味が押し寄せたので、マスクが機能していたと分かりました。笑
ちなみに、ひげを伸ばしているインドや中東系の男子学生も多いのですが、マスクがぴったり着用できないので剃るように言われることがあります。
3.ワクチン接種
病院実習は現在継続されており日々患者さんと接するため、コロナ対応のお手伝いをするかどうかにかかわらず、医学生は病院スタッフと同じ待遇でワクチンを受けられます。
私も実習先の病院で、早速第1回目のワクチンを受けました。
↑Pfizerのワクチンでした。
ワクチンを接種した後も、ソーシャルディスタンスや公共の場でのマスク着用を守るよう、強く念押しされました。
私は重篤な副作用はありませんでしたが、注射した箇所の筋肉痛が2~3日続きました。
イギリスでは10週間後に2回目を接種することになっているので、私の場合3月後半となります。
準備完了!
このほかに臨時雇用に必要な書類の記入、(留学生であれば)ビザのコピーの提出といった事務作業を終えれば、晴れて現場で貢献できます!